産業用ガス、化成品

炭酸ガスの市場と温室効果ガス

 液化炭酸ガスの日本国内工場出荷量(JIMGA統計)は、2020年度で675千トンで、内、溶接用が約290千トン強を占め、右図に示すような用途で使用されています。

 一方、二酸化炭素は、赤外線の2.5~3μm、4~5μmの波長帯域に強い吸収帯を持つため、地上からの熱が宇宙に拡散する事を防ぐ、いわゆる温室効果ガスとして働きます。

 二酸化炭素は、アンモニア製造や石油精製プラントなどから反応副産物として排出され、回収液化されたものをリユースとして使用しています。
 しかしながら、環境省温室効果ガス排出量算定・報告マニュアル 第II編温室効果ガス排出量の算定方法によると、例えば、アンモニア製造過程で回収し他人へ供給する場合のCO₂は排出量の算定外となります。その回収されたCO₂をリユースするドライアイスや噴霧器から排出されるCO₂は排出量として算定されます。

液化炭酸ガス 用途別シェア(2020年度)

 このため、超臨界プロセス等で使用するリユースCO₂も温室効果ガス排出量として算定されると考えられます。CO₂をリユース/再利用する際の回収・精製・循環使用技術が従来以上に重要です。リユースのCO₂を再度回収するために、更にエネルギーを使用する(CO₂排出)矛盾との経済的なバランスを取る事が求められます。

ドライアイス使用時の「環境省温室効果ガス排出量算定・報告マニュアル」の記載例

3.2.15 ドライアイスの使用

(1)活動の概要と排出形態
食品加工・販売等で保存用に用いるドライアイスの使用に伴ってCO₂ が排出します。
(2)算定式
CO₂ 排出量はドライアイスの使用時の排出量となります。
  CO₂ 排出量(tCO₂)=ドライアイスの使用時のCO₂排出量(tCO₂)
(3)排出係数
排出量は、ドライアイスの使用時のCO₂ 排出量としているため、排出係数は設定していません。

二酸化炭素の状態図 (温度・圧力線図)【高圧二酸化炭素(超臨界二酸化炭素)の物性値】

 状態図・相図は、二酸化炭素の相(固体・液体・気体)と熱力学的な状態量の関係を
表したものです。物資がある相から他の相に変わることを相転移と言います。
 固体が液体に変わる現象が溶融、融解で、その相変化を示した曲線を溶融線、融解線と
言います。液体が気体に変わる現象が沸騰、その逆が凝縮で、この温度が沸点で、その
相変化を示した曲線を沸騰線、凝縮線、或いは、蒸気圧曲線と言います。
 固体が液体にならずにそのまま気体になる現象が昇華であり、この時の温度が昇華点で、
昇華線と言います。

CO2の温度-圧力線図(状態図)

 上図 モリエル線図(p-h線図、圧力-比エンタルピー線図)は、縦軸に圧力、横軸にエンタルピー(CO₂の熱量)を取ったもので、超臨界CO₂サイクルでのCO₂の状態を表せます。操作条件の各種状態でのCO₂の状態を1枚の線図で描く事により、各部の状態や数値を知り、 また、その数値を使用して熱量計算や運転状態の判断に活用する事ができる便利な線図です。モリエル線図の使い方は、こちらを参照下さい

 二酸化炭素の三重点(固体・液体・気体の状態が同時に存在する)は、-56.6℃、5.28kg/ cm2absです。三重点未満の圧力では液体は存在しません。このため、大気圧では液体は存在せず、固体/ドライアイスは直接気体に変わります、即ち、昇華します。

 ボンベや貯槽に充填されている二酸化炭素は、通常、液体と気体が共存する沸騰線上にあります。このため、減圧すると容器内の二酸化炭素は沸騰を始めると共に、断熱膨張で温度が下がり、三重点の5.28kg/cm2absを下回ると容器内の液体はドライアイスに変化します。

ドライアイスの種類このページのトップへ

ブロック,スライス,ミニナゲット,スノー

ドライアイスの利用はこちら

水との相互溶解度このページのトップへ

二酸化炭素は水に溶解し、以下のように解離するため、非常に良く溶解します。

CO2(g) ⇔ CO2(aq)

水に溶解したCO₂の一部は水分子の付加により炭酸となり、解離して更に溶解します。

CO2(aq) + H2O(l) ⇔ H2CO3(aq)
H2CO3(aq) ⇔ HCO-3(aq)+ H+(aq)
HCO-3(aq) ⇔ CO2-3(aq) + H+(aq)

右図は高圧でのCO₂と水との相互溶解度を示します。

水に対するCO2溶解度,CO2に対する水の溶解度

pH(ペーハー)値このページのトップへ

 大気中の二酸化炭素が溶け込んだ水のpHは、約5.6です。25℃の水に二酸化炭素が飽和で溶解した場合のpHは、3.7になります。

 CO₂の濃度・圧力が高くなると上式の平衡が右に移動し、水中のH+濃度が高くなり、pH(ペーハー値)は右図に示すように低くなり、35℃の場合、pH = 2.9 に漸近します。
注記:右pH図は複数の文献値をイメージ化したものです、詳細はお問合せ下さい。

CO2で飽和した水のpH

規格このページのトップへ

二酸化炭素 CO₂に関する主な規格と品質は以下のような関係にあります。最新の規格等で御確認下さい。

用途 規格番号 純度 vol% その他 vol%
工業用 JIS K 1106 1種:99.5 以上
2種:99.5 以上
3種:99.9 以上
水分 0.12 以下
水分 0.012 以下
水分 0.005 以下
異臭がない事
溶接用 JIS Z 3253 99.8 以上 水分 0.012 以下 -
食品用
(添付物)
食品添加物公定書
(FA043600)
99.5 以上 性状:無色・無臭の気体
規定された試験方法での試験で検出されない事
遊離酸、リン化水素、硫化水素、還元性有機物、一酸化炭素
炭酸飲料用 JAS 0567 99.95 以上 -
医療用 日本薬局方 99.5 以上 性状:無色・無臭の気体
規定された試験方法での試験で検出されない事
酸、リン化水素、硫化水素、還元性有機物、一酸化炭素

供給形態(ボンベ、LGC/ELF、ローリー/貯蔵タンク)このページのトップへ

二酸化炭素 CO₂の供給形態・荷姿は、通常右の写真のように三種類あります。

ボンベの使い方参照ください! (1)サイフォン管付き容器/一般容器

 液化炭酸ガスを通常30kg充填したシームレスの鋼製容器、10kg充填、7kg充填などがあります。
 容器には、CO₂を液体で取出すサイフォン管付き容器と気体で取出す一般容器があります。
 窒素や酸素等と異なり、容器内には液体が充填されています。ボンベには下表の種類があります 。
 超臨界状態で炭酸ガスを利用する場合など、ポンプで昇圧する場合はサイフォン管付き容器を使用し、通常、沸点液のため過冷却して使用します。
 周辺温度が高温になるとボンベから炭酸ガスが噴き出しますので注意が必要です、”ボンベ内状態”参照下さい!

ボンベ図
<ボンベ&弁図:クリ
ックで拡大します>

(例) : 止め弁等を含まないサイズ、重量で、概略値です
CO₂充填量 サイズ 重量 内容積
30 kg 232 mmφx1,190mm高さ 46 kg 40 L
10 kg 165 mmφx 900mm高さ 24 kg 13.4 L
7 kg 139.8mmφx 965mm高さ 11.5 kg 9.38 L
2.5 kg 101 mmφx 645mm高さ 6 kg 3.35 L
二酸化炭素ボンベ,一般とサイフォン管付き
(2)極低温容器LGC:Liquid Gas Container、ELF:Evaporator Liquid Flask)

LGC図
<LGCフロー概念図:
クリックで拡大します>

 可搬式液化ガス(極低温容器、LGC/ELF)は、ステンレス製の内槽とステンレス製、又は高張力鋼製の外槽との間を真空断熱した魔法瓶型の容器です。液化炭酸ガスが約2MPa、-20℃で160kg充填されています。サイズ(概略)は、508mmODx1,580mmh、空重量約130kg、内槽安全弁作動圧は、3.13MPa(g)、破壊式安全弁作動圧3.92MPa(g)です。
 外部からの侵入熱により容器内の圧力が徐々に上昇し、安全弁の作動圧を超えると内部のガスが放出されます。

LGC


CEタンク

(3)貯槽タンク(CE:コールドエバポレーター)

 二酸化炭素を大量に使用する場合は、真空断熱の貯槽を使用します。貯蔵量は、4.5~17ton、4.9~18m³、最高使用圧力2.45 MPa(g)が一般的です。LGCと同様に、液化炭酸ガスが約2MPa、-20℃の状態で貯蔵され、製造工場よりタンクローリー車(充填量8ton前後)で供給されます。
 ボンベ、容器、タンク類は密閉容器のため、CO₂の使用により容器内の圧力が低下し続けます。このため、貯槽タンクには、通常容器下に加圧蒸発器(右図参照、大気温で加温)が設置され、貯槽上部よりガスにて加圧し、貯槽内の圧力を一定に保ちます。一方、使用しない場合は、真空断熱と言えども大気からの侵入熱で貯槽内の圧力は約0.15MPa/10日(10m³貯槽)で上昇し、0.45%/日で自然蒸発により大気へ消失します。

ボンベの使い方このページのトップへ

 液化炭酸ガスは、他のガスと異なり、液で充填されています。このため、レギュレーター(圧力調整器)の一次圧では残量を正確に推定する事はできません。また、ガスか、液かの使い方により以下の注意が必要です。

○液化炭酸ガスボンベの使用形態 :

  1. ガス(気体)で取り出し、減圧して所定の圧力で使用
  2. 液体で取り出し、冷却して使用(超臨界等での使用)
  3. 液体で取り出し、気化器を使用してガスにして、所定の圧力で使用

ボンベ内の圧力が 0.417 MPa 以下になるとボンベ内で液化炭酸ガスがドライアイスになります。
このため、減圧弁などで、閉塞を起こす場合がありますので、注意が必要です。

①液化炭酸ガスボンベからガス(気体)で取出す場合:

  • サイフォン管が付いていない一般容器を使用します。サイフォン管付(液取り専用容器)は使用しません!
    容器内からのCO₂の放出により容器内は断熱膨張で温度と圧力が下がります。
    通常1本の容器から連続的にボンベ内の残量がなくなる最後まで使用できる流量は、周辺温度に大きく依存しますが、数kg/Hr 程度です。
    多量に使用すると圧力調整器の作動部が凍結し、ガスが流れなくなることがあります。
  • 所定圧力で一定流量を排出するためには、加温器/ヒーターを使用する必要があります。
    数kg/Hr程度の少量の場合は、ヒーター付き減圧弁を使用します。10kg/hr 以上使用する場合には加温器付き減圧装置を使用します。

②③液化炭酸ガスボンベから液体で取出す場合:

  • サイフォン管付容器を使用し、ボンベの底から液を直接取出します。
    超臨界流体等ポンプで昇圧使用する場合は、加速度抵抗、NPSHなどで配管内でガス化する場合があります。
    このため、過冷却してから昇圧するのが、一般的です。
    液体で取出し、ガス(気体)で使用する場合は、サイフォン管式容器から液体を取り出した後、気化器でガス化します。

気化器(写真左)+LGC(液抜)例

気化器(写真左)+LGC(液抜)例

ボンベ内状態このページのトップへ

 40Literボンベに法規定の充填定数1.34で充填するとCO₂はボンベ内には約30kg入ります。ボンベ内は、約22℃以下では液とガスが平衡状態(右図の沸騰線上)にあり、例えば、温度10℃(圧力4.4MPa(g))の時は、容器内は約85%が液、15%がガス状態で存在します(青色破線参照)。
 温度が約22℃(圧力5.9MPa(g))になるとボンベ内は、満液となり、更に温度が上がると、満液でガスが存在しないため容器内の密度低下に伴い容器内の圧力が沸騰線から外れ、青色線に沿って急激に上昇し超臨界状態になります。更に温度が上昇し、約47℃になると15.8MPa(g)となり、安全板が破裂しCO₂が大気中に放出されます。
 橙色線の破線、実線は、40LiterボンベにCO₂を25kg充填、充填定数1.6のケースです。温度10℃(圧力4.4MPa(g))の時は、容器内は約67%が液、33%がガス状態で存在し、約29℃で満液になり、温度が上昇に従い、橙色線に沿って圧力が上昇し、約61℃で15.8MPa(g)となり、安全板が破裂しCO₂が大気中に放出されます。
 夏場ボンベを屋内等に設置し、異常時等 注記 に周囲温度が45℃以上になる可能性がある場合は、特別な25kg充填ボンベのご使用をご検討下さい、詳細は御問い合わせ下さい。

【注記】充填容器(ボンベ)は40℃以下での管理が必要ですので、ご注意下さい。(一般高圧ガス保安規則第6条2項8号ホ)

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