産業用ガス、化成品
アルゴン(液化アルゴン・アルゴンガス・Ar・argon、CAS:7440–37–1)
アルゴンガスの用途 : さまざまな市場で使用されているArガス
鉄鋼・非鉄金属・冶金 市場 | 溶接 市場 | 半導体 市場 | 封入 市場 | 分析 市場 | 金属成形 市場 |
製鋼:取鍋への吹き込みやイオウなどの不純物を除去する真空脱ガスとして使用されています。ステンレスなどの特殊鋼製錬では、脱炭のための雰囲気ガスとして用いられます。 製錬:チタンや純度の高い単結晶シリコンなどの製錬には、まったく他の物質とは反応しないアルゴンを雰囲気ガスとして用いて、酸化・窒化を防止しています。また、銅の連続鋳造工程中では、溶銅表面を大気に触れないようにするシールドガスとして溶銅の酸化、窒化防止に役立っています。 |
アルミニウム、ステンレス鋼などの溶接時には、溶接表面をアルゴンでシールドすることにより酸化・窒化を防ぐとともに溶接面を美しく保ちます。 | 半導体の製造時、スパッタリング用のガスとして、あるいはCVDなどの工程でバランスガスやキャリアガスとして用いられています。 | 水銀灯、蛍光灯、電球、真空管等の封入ガスとして使用されており、白熱電球では、フィラメントの蒸発を抑え、熱拡散を防いで製品寿命を延ばします。蛍光灯はアルゴンと水銀の持つ紫外部特有のスペクトルを蛍光塗料で可視光線としたものです。 | ICP(誘導結合プラズマ)のプラズマ用ガスや、クロマトグラフのキャリアガスとして熱伝導率の小さいアルゴンは、熱伝導率の大きいヘリウムや水素の分析をするのに適しています。 | 高温、高圧下でガスを圧力媒体として、金属、合金、セラミックスなどを成形する熱間十方加圧法(HIP)では、原料の酸化・窒化を防ぐためにアルゴンが用いられます。HIP装置の詳細は、こちらを 参照下さい。 |
アルゴンの日本国内販売量(JIMGA統計)は、2021年度で210百万m³、内液体アルゴンが203百万m³、ボンベ詰が7百万m³、
下図に示すような用途で使用されています。
- 食品
- ワインの酸化防止。 海外が先行、日本でも漸く始まりました・・
欧米ではワインの酸化防止の為にアルゴンガスが使用されています。窒素ガスに比べてアルゴンガスの方が高価ですが、不活性度(他の物質と反応しない性質)は窒素よりも高く、
空気よりも重い(比重 1.38)ので、窒素よりも空気と入れ替わ速度が遅く、なおかつ、重いので下に溜まりやすく、他のガスを追い出しやすい性質を持っています。
窒素ガス(比重 0.97)は、空気よりほんの僅かに軽いため、窒素ガスをワインビンの中に入れても、蓋を閉めないで放置すると軽い窒素ガスが瓶中から拡散して放出され、
重い酸素ガス(比重 1.11)が瓶内に拡散・侵入し、簡単にもとの酸素濃度に戻ってしまうと言われています。
窒素ガスの場合、ワイン瓶内に注入する勢いで空気/酸素を置換するのに対し、アルゴンは自らの重みを使って置換しますので、より信頼性が高くなります。
このため、高価なワインで、酸化して味を劣化させたくない場合にはアルゴンが良く使われます。
日本 : 食品衛生法改正:2019年6月 ⇒ アルゴンガスが食品添加物として認められ、食品に利用されるようになりました。
酒類保存のため物品を混和する事ができる種類の品目等の指定が改正:2022年1月 ⇒ 全酒類に添加可能になりました。
アルゴン・Arの状態図 (温度・圧力線図)
状態図・相図は、アルゴン・Arの相(固体・液体・気体)と熱力学的な状態量の関係を表したものです。物資がある相から他の相に変わることを相転移と言います。
固体が液体に変わる現象が溶融、融解で、その相変化を示した曲線を溶融線、融解線と言います。
液体が気体に変わる現象が沸騰、その逆が凝縮で、この温度が沸点で、その相変化を示した曲線を沸騰線、凝縮線、或いは、蒸気圧曲線と言います。
固体が液体にならずにそのまま気体になる現象が昇華であり、この時の温度が昇華点で、昇華線と言います。
アルゴン・Arの三重点(固体・液体・気体の状態が同時に存在する) は、-189℃(84 K)、0.069MPa(abs)です。臨界点(critical point、気体と液体が共存できる限界の温度・圧力、これを超えた状態で通常の気体、液体とは異なる性質を示すユニークな流体は超臨界と言う)は、-122.5℃(150.7 K、臨界温度Tc)、4.898MPa(abs、臨界圧力Pc)です。
供給形態(ボンベ、LGC/ELF、ローリー/貯蔵タンク)
アルゴンガス・液 Arの供給形態・荷姿は、通常、以下のように三種類あります。
- (1) 一般容器(気体充填用)
右表に一般容器のボンベを示します。もっとも普及しているボンベは、7,000 Liter = 7 m³のものです。14.7MPa(g)(約150気圧)で気体状態で充填されたアルゴンボンベの重さは約64kgになり、かなり重いため、取り扱いには注意が必要です。
Ar 充填量 | サイズ(概略) | 空重量 | 内容積 |
7,000 Liter | 232mmφ x 1,365mm高さ | 52kg | 46.7L |
1,500Liter | 139.8mmφ x 965mm高さ | 11.5kg | 10.2L |
500Liter | 101mmφ x 645mm高さ | 6.0kg | 3.4L |
- (2) 極低温容器(液体充填用)
可搬式液化ガス(極低温容器、LGC:Liquid Gas Container、ELF: Evaporator Liquid Flask エルフとも呼ばれる)は、ステンレス製の内槽とステンレス製又は高張力鋼製の外槽との間を液化ガスの蒸発を極小にする真空断熱した魔法瓶型の容器です。
176L容器では、127m³のアルゴンが充填されているため、一般容器と比較し、18倍以上のアルゴンが入っています。このため、容器交換の頻度が少なくて済み、ガスも安価になります。 但し、外部からの侵入熱により容器内の圧力が徐々に上昇しやすく、内槽安全弁、破壊式安全弁が付属しており、安全弁の作動圧を超えると内部のガスが放出されます。
Ar 充填量 | サイズ(概略) | 空重量 | 内容積 | 供給量 |
127m³ (202kg) |
508mmφ x 1,580mm高さ |
106kg | 176L | 最大25m³/Hr |
360m³ (569kg) |
859mmφ x 1,630mm高さ |
315kg | 465L | 20~60m³/Hr |
- (3) 貯槽タンク(CE:コールドエバポレーター)
アルゴンを大量に使用する場合は、真空断熱の貯槽を使用します。貯蔵量は、3.6~22ton、2.6~16m³、最高使用圧力0.95 MPa(g)が一般的です。製造工場よりタンクローリー車(充填量8ton前後)で供給されます。
ボンベ、容器、タンク類は密閉容器のため、アルゴンの使用により容器内の圧力が低下し続けます。このため、貯槽タンクには、通常容器下に加圧蒸発器(大気温で加温)が設置され、貯槽上部よりガスにて加圧し、貯槽内の圧力を一定に保ちます。一方、使用しない場合は、真空断熱と言えども大気からの侵入熱で貯槽内の圧力は徐々に上昇し、0.5%/日程度で自然蒸発により大気へ消失します。
Ar 充填量 | サイズ (概略:外径x高さ) |
空重量 | 内容積 | 貯蔵容積 | 設計圧 |
3,648kg | 1,712mmφx3,659mm | 2,300kg | 2,900L | 2,610L | 1.0MPa |
6,218kg | 1,712mmφx5,197mm | 3,350kg | 4,942L | 4,447L | 1.0MPa |
12,248kg | 2,218mmφx5,489mm | 6,200kg | 9,735L | 8,761L | 1.0MPa |
22,450kg | 2,218mmφx8,676mm | 9,800kg | 17,843L | 16,058L | 0.97MPa |
ボンベの刻印
- (1)容器所有者記号(例:H071)
- (2)充填ガスの種類(例:N₂、O₂、Ar、CO₂等)
- (3)容器記号番号(例:ABC23456)
- (4)内容積(V:単位リットル)
- (5)容器重量(W:単位キログラム)(弁、キャップを含まない)
- (6)耐圧試験圧力(TP:単位MPa(g))
- (7)最高充填圧力(FP:単位MPa(g))